「¥1,000,000」はいくらですか?――答えが23倍変わる、貿易現場の話

この記事を書いた人
行政書士 鬼頭文
・プライベートを含めて約35か国以上を訪問した経験をもつ
・貿易支援も可能な 数少ない行政書士
・通関業者や企業の貿易部門、営業、広報などで培った豊富な経験と知識を活かし、日々様々なクライアント様の相談にのっている。
*業務例:輸出や輸入のサポート・契約書作成支援・保税蔵置場関係 etc.
(公財) あいち産業振興機構 経営技術専門家、国際アドバイザー
(一社) 海外事業支援センター (OBAC) アドバイザー
いきなりですが、クイズです。
Q. 「¥1,000,000」――さて、いくらでしょうか?
「100万円に決まってるでしょ」と思った方。正解です。ただし、日本では。
今日は、実はこの金額が約2,300万円かもしれない、という話をします。
「¥」マークは日本円だけのものではない
実は、「¥」マークを使う通貨は日本円だけではありません。中国の人民元も、同じ「¥」マークを使います。
- 日本円:¥(ISOコード:JPY)[3]
- 中国人民元:¥(ISOコード:CNY)
執筆時点(2026年8月上旬)のレートで、1人民元 ≒ 23円。つまり冒頭の「¥1,000,000」は、
| 読み方 | 日本円に直すと |
|---|---|
| JPY(日本円)なら | 100万円 |
| CNY(人民元)なら | 約2,300万円 |
その差、約23倍。記号だけでは、どちらなのか区別がつきません。
ニュース写真の「JPY」に安心してしまう貿易業界あるある
先日、ロイターの記事を読んでいて、写真に写っていたベセント米財務長官の書いたメモの中の「JPY」の3文字に目が留まりました[1]。「ああ、ちゃんとJPYって書いてある」と安心感を覚えている自分に気づきました。これは職業病かもしれません(笑)
貿易の実務現場では、金額を書くときに
- 「JPY 1,000,000」「CNY 50,000」
- 「JP¥」「CN¥」
のように、どの国の通貨かを意識して仕事をすることが通常です。契約書や(税関申告時の)インボイス…価格がでてくる場面はたくさんありますが、気をつけなければいけないのは、海外の取引先から届いたインボイスに「¥」とだけ書かれているとき。日中間の取引では、ここが思わぬ落とし穴になります。
取り違えると何が起きるか――例えば輸出入申告の現場から
輸出入申告では、外貨建ての価格を税関が公示するレート[2]で円に換算して、課税価格(関税や消費税のもとになる金額)を計算します。ここで通貨を取り違えると――
- 本当は人民元建てなのに日本円と思い込んで申告してしまうと、課税価格を実際の約23分の1で申告したことになります。あとから発覚すれば修正申告が必要になり、不足していた関税・消費税に加えて、加算税や延滞税がかかる場合があります。
- 逆に、日本円建てなのに人民元と取り違えれば、約23倍の金額で申告することになり、関税や消費税を大きく払い過ぎてしまいます。
実際、輸出入申告の現場でこの取り違えを見かけることが、稀にですがあります。単なる「記号の読み間違い」では済まない金額差につながるだけに、注意したいポイントです。
防ぐためのポイントは3つ
- どの書類も、通貨は必ず3文字のISOコード(JPY・CNY)で書く・書いてもらう
契約書の段階で「価格はどの通貨建てか」を明記しておくのが出発点です。 - 「¥」だけの書類が届いたら、必ず取引先に確認する
「たぶん円だろう」で進めないこと。メール一本で確認できます。 - 申告前に金額の“桁感”をチェックする
商品の単価と数量から考えて、明らかに安すぎる・高すぎる金額になっていないか。一呼吸おいて見直すだけで、多くの取り違えは防げます。
おわりに
冒頭のクイズ、正解は「書類にJPYかCNYか書いていなければ、確定できない」でした。
今回は「¥」の話をしましたが、「$」も同じです。米ドル(USD)なのか、オーストラリアドル(AUD)なのか、それとも香港ドルやシンガポールドルなのか――記号だけでは分かりません。
たった1文字の記号。その裏に、大きな金額差が潜んでいることがあります。海外との取引に関わる方は、ぜひ一度、お手元の契約書やインボイスの通貨表記を確認してみてください。もし通貨が書かれていないようでしたら、大きな取り違えが起こる前に、書いておく(取引先に明記してもらう)ことをおすすめします。
当事務所では、貿易取引の契約書や書類まわりのサポートを行っています。「通貨や条件の書き方、これで大丈夫かな?」と迷う場面がありましたら、お気軽にご相談ください。
参考サイト
- ロイター「米財務長官の『やることリスト』に円買い50億─100億ドル ロイターの写真で判明」(2026年8月1日。記事中の写真より)
https://jp.reuters.com/opinion/2POJ2FWMAZLRFDQ4CQRAOHLAOA-2026-07-31/ - 税関「公示為替相場(税関長が公示する相場)」(人民元を含む各国通貨の週間レートが公示されています。通貨コード一覧としても便利です)
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/kawase/index.htm - ISO「ISO 4217 — Currency codes」(通貨コードの国際規格の解説ページ。英語。全通貨の一覧表はページ内のリンクからダウンロードできます)
https://www.iso.org/iso-4217-currency-codes.html
