加速する貿易DXとAI──輸出入の現場での行政書士の役割

この記事を書いた人
行政書士 鬼頭文
・プライベートを含めて約35か国以上を訪問した経験をもつ
・貿易支援も可能な 数少ない行政書士
・通関業者や企業の貿易部門、営業、広報などで培った豊富な経験と知識を活かし、日々様々なクライアント様の相談にのっている。
*業務例:輸出や輸入のサポート・契約書作成支援・保税蔵置場関係 etc.
(公財) あいち産業振興機構 経営技術専門家、国際アドバイザー
(一社) 海外事業支援センター (OBAC) アドバイザー
輸出入の現場は、いま確実に動いている
私の主要業務である輸出入の世界では、DX(デジタル化)とテクノロジー活用の波が本格化しています。貿易手続きをデジタル化する TradeWaltz(トレードワルツ) は、ブロックチェーン技術を活用したプラットフォームで、2020年に事業を開始し[1]、いまや商用版として実務に根づいています[2]。フォワーディングをデジタルで一気通貫させる Shippio(シッピオ) も、2026年にサイバーポート経由でNACCSと連携[3]し、AI通関クラウド「Shippio Clear」の提供を開始[4]するなど、年々進化を遂げています。実務は「書類を入力する」段階から「データを標準化して照合する」段階へと、確実に動いています。改ざんを防ぐブロックチェーン技術や、AI解析の活用が、この変化を支えています。
輸出入を支援する立場の私は、日々クライアントや行政の方と話すなかで、この変化を三つの視点から眺めています。
変化を、三つの視点でとらえる
- 企業(輸出入者)の視点――いちばんの関心は、円滑化とスピード。調査や手続きのスピードと正確性が上がり、商機を逃さないことが、そのまま競争力になります。
- 行政の視点――行政側も調査・手続き・確認のスピードが上がります。一方で、不正や偽造書類・偽造品をどう見抜くか、照合と真正性をどう確保するかという、民間とは異なる視点でのチェック体制が求められます。
- 世界(グローバル)の視点――ルールや条約は刻々と変わり、「言語の壁」も低くなりつつあります。日本語という壁は、世界的に見れば不便であると同時に、これまでは国内をある種守ってもいた側面があります。AI翻訳が進むなかで、その壁が消え、守られていたものが良くも悪くもむき出しになりつつあります。変化への理解と整理が、いま改めて必要になっています。
現場に立つ専門家として、複合的な視点で見ることも役割のひとつなのだと感じています。
主導権は、まだ自分側にあるか
現場がこれだけ便利になっていくと、ふと立ち止まって考えることがあります。
私自身、多くの方と同じように、AIエージェントをはじめとするテクノロジーにすっかりお世話になっています。最近では、エンジニアでもない私が、ローカル(自分のパソコンの中)で動く自作ソフトやアプリまで作るようになり、すごい時代に生きているな、と実感します。
ただ、便利さに身を任せるなかで、ふと自問することがあります。「私はいつのまにか、AIに入力するために一次情報を取りに行き、人と会っているのではないか。AIに、のっとられていないか?」と。注意していないと、積み重ねてきた判断も言葉も専門性も、AIに明け渡してしまいかねません。そもそも、いま私たちが触れているAIは、自分が入力しない限り、今日感じたことはまだそこに無く、出てくる答えも誰かの学習内容からの推論にすぎず、完璧ではないのです。
ガンダムに「乗る」のか、エヴァに「溶ける」のか
思い浮かぶのは、人気アニメのガンダムとエヴァンゲリオン。ガンダムは操縦席(コックピット)に座り、自分の手で動かす機体で、主導権は人間の側にあります。一方エヴァは、パイロットが機体とシンクロして動かし、同調しすぎると自分と機体の境界がぼやけ、輪郭が溶けていきます。ときに暴走してしまうことも。いまのAIにもまだ「ハルシネーション」――もっともらしい誤りを、事実のように生成してしまう現象――があります。だからこそ、自分の手でAIを使っている感覚を失わないこと、あくまで操縦席に座る乗り手でいることを心がけています。
デジタル対応が、行政書士の「職責」になった話
デジタルの流れは、私の足元――行政書士法そのものにも刻まれました。
2025年6月に成立し、2026年(令和8年)1月1日から施行された改正行政書士法[5]では、新たに第1条の2(職責)が設けられました[6]。その第2項に、注目したい一文があります。
行政書士は、その業務を行うに当たつては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない。
――改正行政書士法 第1条の2第2項(令和7年法律第65号)[5]
「デジタル社会への対応」が努力義務として明記されたのは、士業法のなかで初めてとされています。これは単なるスローガンではありません。デジタルを活用して依頼者の利便を高めることが、これからの行政書士の職責の一部として、法律に書き込まれたということです。
貿易DXの風を肌で感じながら、企業・行政・世界という三つの視点で課題を見つめ、解きほぐしていく。貿易に携わる数少ない行政書士のひとりとして、貢献していきたいと考えています。
輸出入の手続きや契約書サポートで「どう判断すべきか迷う」場面があれば、現場視点で一緒に整理します。お気軽にご相談ください。
参考・出典
- 経済産業省「産業横断型貿易プラットフォーム”TradeWaltz”の紹介とユーザー…」
https://www.meti.go.jp/shingikai/external_economy/digital_trade_platform/pdf/001_05_00.pdf - 株式会社トレードワルツ「貿易情報連携プラットフォーム『TradeWaltz®』2022年4月商用版…」
https://www.tradewaltz.com/news/4594/ - 株式会社Shippio「Shippio、国土交通省サイバーポート・NACCS連携へ」
https://www.shippio.io/news/press-release/naccs_202604/ - 株式会社Shippio「AI通関クラウド『Shippio Clear』を新たに提供開始」
https://www.shippio.io/news/press-release/shippio-clear/ - 日本法令索引「行政書士法の一部を改正する法律 令和7年法律第65号」
https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000168061¤t=-1 - 総務省「行政書士法の一部を改正する法律要綱」(PDF)
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014674.pdf
